- 2008-10-21
- 新世界国際劇場 ②


「 フォール 」( 2022英 ・ 米 )
天に刺さる岩壁。ピンと張ったロープ。全てが直線でできている。そして男は引力に敗れた。
1年後再び女たちは挑む。今度は見捨てられた600メートルの電波塔。SNSも届かぬ世界。
「 私を信じて!」「 あなたはできる!」地上なら陳腐なセリフがここでは灼熱の重み。
梯子が崩壊し戻れなくなった二人。死体になるのを待ち受けるハゲタカが頭上で旋回する。
目の前の友は本当に友か? 幻影ではないのか? 最後の企みにあっとのけぞった。


「 ザ・メニュー 」( 2022米 )
限られたエスタブリッシュのための超高級レストラン。客の内実は落ち目の映画スター。
箔をつけたいエセグルメ。舌鋒で多くの店を閉店に追い込んだ美食評論家。エスコート
ガールを伴うイケメン。孤島のダイニングは一度入ると出られない「 注文の多い料理店 」。
暴かれるのはシェフの執着? 客の虚飾と実像? 極上の料理を味わいながら
繰り広げられる殺人ショー。皆脳と舌を魅せられ寸暇も動けず。ただ一人彼を拒否し、
「 私は食べたいものだけを食べる! 」と叫んだエスコートガールのみなぜ生き残った?
さて、現代の食の着地点は奈辺にありや? 楽しんで作る。味わって食べる。対価という
敬意を払う。一億総評論家時代の今我々の食を見る眼は温かいのだろーか?


「 ベイビー ・ ブローカー 」( 2022韓 )
赤ちゃんポストに置かれた嬰児。翌日舞い戻った女&養子縁組で一獲千金をもくろむ
男二人の笑えない笑劇( ファース )。片や借金に追われるクリーニング屋の店主。
片や施設で育ち女に憐憫の情を抱く青年。彼女は売春を強要され人を殺めて手配中!
男二人、女一人、赤ちゃんに養護施設のクソガキを加え都合5人は少しずつ寄り添う。
「 オレなら父親になってもいい 」「 そんなセリフはプロポーズの時に言うものよ 」
心温まる結末。一網打尽を狙い尾行していた刑事がつぶやく。
「 結局一番売りたがってたのは私だったかもしれない ・・・ 」
韓流にしてはウェットだと思ったら監督が是枝裕和( これえだひろかず )でした。


【 資料 】

「 潜水艦クルスクの生存者たち 」( 2018仏 ・ ベルギー ・ ルクセンブルグ )
ロシア北方艦隊の最新鋭潜水艦「 クルスク 」の出航を陸の子供たちが追う。
直後の大爆発で館内に閉じ込められた乗組員たち。貧弱な装備ゆえ何度も救出に
失敗し英国や欧州が援助を申し出るも露軍司令官は言い放つ。
「 他国の干渉は受けない 」
司令官を演じるは先ごろ90歳で召された名優マックス ・ フォン ・ シドー。こんな使い方
モッタイナイ! 愛国心は土壌を間違えると毒の花を咲かせる。さじ加減にご用心。


「 警官の血 」( 2022韓 )
『 警官は白にも黒にもなっちゃいけない。ボーダーラインにいなくちゃいけない 』
小悪を見逃し賄賂を取り、巨魁を倒すためには同僚さえも傷つける刑事( デカ )。
監察の意を受け彼のチームに潜入した主人公は彼の傍若無人に反発しつつ惹かれる。
やがて明らかになる父の死の真相とは? あーどこかで見たテイストだよ。そーだ、
役所広司の「 虎狼の血 」だ。正義とは常にそれを口にする者の思いの強さのみに
よって量られるもの。力のない正義は無力だとビッグマグナム先生も言っていた。


「 RRR 」( 2022インド )
炎天下の下、友情、アクション、美人、歌にダンスをカレー鍋でぐつぐつ煮込んだ映画。
少女を英国総督にさらわれた村の男が立ち上がる。ライバルはジョンブルの犬と化した
警察官。しかし彼には武器を手に入れ蜂起を起こす遠大な計画があった。交差する思惑。
真に友情の二人となった虎と狼は敵をなぎ倒し、辱め、踊りまくる。楽曲がも~ノリノリ!


「 デリシュ! 」( 2020仏 ・ ベルギー )
仏革命前夜、” 食事を楽しむ ” のは貴族の特権。レストランは存在しなかった。
侯爵の意に反し創作料理を出したため解雇された男。そして現れた弟子入り志願者。
「 そんな手をした女は貴族か娼婦だ 」 娼婦と決めつけちょっかい出すも激しい拒絶。
正体は夫を侯爵に殺され復讐の鬼と化した元伯爵夫人だった。男はレストランを開く。
小さなテーブル。小さなお皿。貴族も庶民も同じ空間で心づくしの料理を頂く。侯爵を招き
男は復讐の機会を与えた。毒入りクッキーは役立ったのか? ハートウォーミングな結末。


「 殺しを呼ぶ卵 最長版 」( 1968伊 ・ 仏 )
機械化で無人となった養鶏場。怒りに燃える労働者の不穏な目つき。絶世の美女
ジーナ・ロロブリジーダ演じる妻を持つ男はちょっとおかしい。その姪と不倫してるし。
犬のミンチを食わせたら頭と脚のない肉ばかりの鶏誕生。「 会社の利益アップ~ 」
男は全部殺してしまう。さらなる合理化の鍵は?「 下着だ! 」 黒がよいらしい。💩

「 ザリガニの鳴くところ 」( 2022米 )
湿地( marsh )と沼( pond )は違う。親に捨てられ湿地で育った女。好奇と差別を
シャワーのように浴びて当然屈託します。それでも美人というのは得なもので、この辺が
映画産業のいやらしいところですな。美人だから惑乱される男もできます。しかも両手に。
謎の死を遂げた片方。嫌疑の懸かった彼女を冴えない初老の弁護士が必至で守ります。
うろん臭い目つきの陪審員たちに向かって偏見から脱するのは今だと説く。評決は無罪!
女はもう片方と結ばれ社会的にも成功。満ち足りた一生を終える。その遺品から・・・


「 ペルシャン ・ レッスン 戦場の教室 」( 2020露 ・ 独 ・ ベラルーシ )
たまたまペルシャ語の本を持っていたがゆえ虐殺を免れたユダヤ人青年。テヘランで
料理店を開くのが夢という能天気な収容所所長に見込まれペルシャ語を教えるはめに。
もしユダヤ人とばれたら即銃殺! 彼は猛烈な勢いで単語をでっち上げ、暗記し、膨大な
言語体系を作り上げる。人知を超えた難事業の先に見えたものは? ナチスの残党狩りが
待ち受ける空港に現れた元所長。意気揚々とマスターしたペルシャ語を披露するが ・・・

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